はじめに:月将と日辰 —— 断卦の「提綱」と「主宰」
六爻予測において、「用神」がシナリオの主役であるならば、「月建」と「日辰」はその劇が演じられる背景と法則です。これらが、主役が順風満帆の中にいるのか、あるいは絶体絶命の淵にいるのかを決定します。
『増删卜易』のシステムにおいて、爻の吉凶を決定する最も核心的な要素は神煞ではなく、「旺相休囚(おうそうきゅうしゅう)」です。
月将(げっしょう)(月建): 一ヶ月の権限を司り、三旬(三十日)の令を司る。「万卜の提綱(すべての占いの根本)」であり、六爻の善悪を巡察し、衰弱したものを助け、強盛なものを抑えることができます。
日辰(にっしん): 六爻の生殺大権(生死を分ける権限)を主宰し、月建と同等の功力を持つ。日辰は遠い未来や過去ではなく、「現在」という決定的な力を表します。 六爻を学ぶには、まずこの二つの「時間のエネルギー」を量化(数値化)する方法を学ばなければなりません。
第一節:四時旺相章 —— 宇宙エネルギーの周期律
五行(金木水火土)のエネルギー状態は、季節によって「旺(おう)・相(そう)・休(きゅう)・囚(しゅう)・死(し)」の五段階に分けられます。
1. 五行旺衰対照表(核心ロジック)
判定基準は以下の通りです。
季節(月) 旺(最強) 相(次に強い) 休(引退) 囚(囚われる) 死(最弱) 春(正月・二月) 木 火 水 金 土 夏(四月・五月) 火 土 木 水 金 秋(七月・八月) 金 水 土 火 木 冬 水 木 金 土 火 土用(四季末) 土 金 火 木 水
2. 筆者による深度評価:
旺(おう): 自分と同じ。春の木のように、エネルギーが最も強い。
相(そう): 自分が生じるもの。春の火のように、次に強い。
休(きゅう): 自分を生じるもの。親が子に力を与えきって休息している状態。
囚(しゅう): 自分が剋するもの。相手を抑え込んでいるが、自分も囚われている状態。
死(し): 自分を剋するもの。相手に圧倒され、手も足も出ない最弱の状態。 実戦の鉄則: 断卦の際、用神が「旺・相」の気を得ていれば、成功の基礎があると言えます。「休・囚・死」であれば、基礎が脆弱であり、日辰や動爻による救いがあるかを見なければなりません。
第二節:月建(月令)の権能と「月破(げっぱ)」
月建はエネルギーの総監督です。生・合・比・扶・剋・沖・刑・破を通じて爻に影響を与えます。
1. 月建の四大機能:
助弱: 衰弱した爻を生じ、または合して、強く(衰えても旺なり)します。
抑強: 強すぎる爻を沖し、または剋して、弱く(旺にしても衰なり)します。
制服: 変爻が動爻を剋している場合、月建が変爻を制圧できます。
提抜: 用神が伏蔵(隠れている)している際、月建が飛神を沖し去れば、用神が活躍できます。
2. 致命的な「月破(げっぱ)」
「月建がこれを沖するを、月破という」。例えば正月の寅月に、卦の中に「申」の金があれば、申は月破となります。
原文の観点: 月破は枯れ木や腐った木のようであり、生じられても起き上がれず、日辰の助けがあっても救い難い。
野鶴老人の実戦的修正: 「兆しは動くところにあり」。動けば傷つき、変われば傷つく。
月破の爻が動く、あるいは合される場合、その月は破れていても「月を出れば破れず」となり、完全に無用とはなりません。 実戦の結論: 「静止して動かず、日辰や動爻の助けもない月破」こそが、本当の「徹底的な破敗」です。
第三節:日辰の権能と「暗動(あんどう)」
日辰の力は月建に匹敵しますが、その役割は「トリガー(引き金)」と「主宰」により偏っています。
1. 暗動:日辰の特殊なトリガーメカニズム
定義: 爻が(月建から助けを得るなどして)旺相しているが、自分では動いていないとき、日辰がこれを沖することを「暗動」と呼びます。
実戦的意義: 暗動の力は極めて大きく、自ら動いた「明動」と同じ吉凶の力を持ちます。また、「人知れず、密かに起こる」という象意(意味)を持ちます。
日破(にっぱ)との区別: 旺相している爻が沖されれば「暗動(有用)」ですが、休囚(弱い)爻が沖されれば「日破(無用・日散)」となります。
2. 旬空(しゅんくう)への影響
沖空(ちゅうくう)なれば則ち実(じつ)なり: 爻が旬空(空亡)であっても、日辰に沖されれば、その日に効果を発揮し、空亡とは見なしません。
第四節:月建と日辰の交互量化(七分と八分の辨)
月建と日辰が同じ爻に対して相反する力を与える場合(例:月が助け、日が剋す)、どう判断すべきか?
古い観点: 「日剋月生は八九分の生、月剋日生は七分の生」といった細かい数値化がありました。
野鶴老人の実戦的修正: そのような数値化は死文化しています。核心的な原則は、用神が月建に生じられていれば、日辰に剋されても「根拠(ルーツ)はある」と見なし、他の動爻による追加のダメージがなければ絶望的ではありません。
第五節:筆者による深度評価 —— 月墓と日墓の真相
多くの古籍では、爻が「墓(ぼ)」に入る(木が未を見るなど)と大凶とされますが、これは大きな誤解です。
1. 「三墓(さんぼ)」の再定義:
真の墓は三つだけです。**日墓(にちぼ)・動墓(どうぼ)・化墓(かぼ)**です。
月墓(げつぼ)は含まれない: 月建が爻に与える影響は生剋であり、閉じ込める「墓」ではありません。
墓の象意: 墓に入るとは「死」ではなく、「意識不明、入院、引きこもり、収蔵、束縛」を表します。旺相していれば、墓から出る時を待てば良いだけです。
第六節:実戦ケースの解析
ケース1:月破であっても破れず(父親はいつ帰るか) 寅月に、父母爻である「戌土」が持世(自分)している卦。月建の寅は戌を剋し、かつ戌は動いて「未土」に変わる。
判断: 戌は月破のように見えるが、野鶴老人は「兆しは動くところにあり、必ず帰期がある」と断じました。結果、合される日(卯の日)に便りがあり、未の日に帰宅しました。「動けば破れず」の実証です。
ケース2:旺盛すぎて凶となる(物極まれば必ず反る) 巳月(火の季節)に、八十歳の老人が自らの病を占った。世爻は火であり、月・日ともに火。極めて旺相している。
判断: 通常なら「すぐに治る」と断じますが、野鶴老人は「日まさに没せんとして霞(かすみ)現る」と断じ、死亡を予言しました。結果、火が墓に入る「戌の日」に亡くなりました。旺衰判断には「中庸」の視点が不可欠です。
第七節:本章の実戦要領ノート
まず月を見、次に日を見る: 月は大勢(旺相休囚)を定め、日は当下の状態(トリガー・日破・沖空)を定めます。
動爻はエネルギーの出口: 月日ともに用神を剋していても、動爻が助けてくれれば「剋処逢生(こくしょほうせい)」、絶体絶命からの生還となります。
真偽の月破を見分ける: 静止して弱い爻が沖されれば「真破」、旺相して動く爻が沖されれば「仮破」です。
結び
月建と日辰は、六爻予測における二大座標系です。旺衰の動的な転換を理解して初めて、卦象の背後にあるエネルギーの流動が見えてきます。
次章予告: 「第五章:時間の力(下):旬空避禍、進退の機と生旺墓絶の真偽」。なぜ「空亡」が時に幸いするのか?「進神」と「退神」から事業の長期的な行方を見極める方法を解説します。
