はじめに:時空の交錯 —— 移動予測の底層ロジック
『増删卜易』の予測体系において、「動(移動)」に関する予測は最も柔軟性が求められます。資料には「人は利名のために道路に奔馳(ほんち)し、風波は測り難し。占卜(せんぼく)は世爻(せいこう)を先(さき)とすべし」とあります。
移動の予測は、三つの関係性を処理することに集約されます。
出発者と目的地(世と応): 世爻は自分(または出発者)、応爻(おうこう)は目的地を代表します。
安全と障害(官鬼と子孫): 官鬼(かんき)は旅の途中の危険や遅滞を、子孫(しそん)は道中の平安や追い風を代表します。
帰宅の意志と応期(用神と合沖): 遠方の人がいつ帰るかは、用神の動静とエネルギーの「填実(てんじつ)」または「トリガー(沖)」によって決まります。
本章では、資料にある「秘法」と現代の実戦知見を組み合わせ、複雑な十二支の変化の中からいかにして行程と帰宅日をロックするかを解析します。
第一節:出行(しゅつぎょう)章 —— 旅の安否と去就の決断
資料「出行章第九十一」によれば、外出占の核心は「人」の安全を確保することにあります。
1. 世爻:出発者の生命エネルギー
世爻が旺相し、動いて吉に化す: 外出の最良の兆しです。出発者に体力が充実しており、目的地で利益が得られることを表します。
世爻が休囚し、凶に化すか回頭剋となる: 絶対に出発すべきではありません。目的地で何も得られないだけでなく、途中で不測の事態に遭う恐れがあります。
世爻が化退神(かたいしん): 「行こうとして後悔する」、あるいは途中で引き返すことになり、最終的に目的地に到達できないことを意味します。
2. 応爻:目的地の環境と頼るべき人
応が世を生合する: 目的地に受け入れてくれる人がおり、環境も友好的であることを表します。
応が世を剋し、官鬼に臨む: 目的地に敵意があり、あるいは法的トラブルや病気のリスクがあるため、行くべきではありません。
3. 官鬼爻:旅の「行く手を阻む虎」
資料は、動く官鬼の爻位や六神による危険の種類を分類しています。
玄武(げんぶ)の鬼: 盗難や小人の暗計に注意。
朱雀(すざく)の鬼: 法的トラブルや口論を警戒。
白虎(びゃっこ)の鬼: 持病の悪化や交通事故の予兆。
螣蛇(とうだ)の鬼: 驚きや怪奇現象による遅延。
勾陳(こうちん)の鬼: しがらみに囚われ、身動きが取れなくなる象。
第二節:舟行(しゅうこう)章と風向き予測 —— 子孫爻の神妙な応用
これは資料の末尾にある、極めて実戦価値の高い「未伝の秘」です。
1. 子孫は「追い風(順風)」の神なり
船旅、あるいは現代の航空・海上輸送において、子孫爻は単なる福神ではなく「順風」の象徴です。
ロジック: 航海で最も恐ろしいのは逆風と嵐(官鬼)です。子孫は官鬼を制することができます。子孫が発動する日は、心が安らぎ、波風が静まり、順風満帆となる時です。
応期の判断: 子孫が動けば「合」や「値(当番)」の日に、静止していれば「沖(刺激)」される日に順風を得られます。
2. 筆者による深度解析:現代の交通手段への置き換え
資料では「舟(ふね)」となっていますが、現代では飛行機や新幹線にも応用可能です。
子孫の発動: フライトが時間通りであり、旅が快適であることを表します。
父母(ぶも)爻の発動: 父母は風雨、または機体・船体そのものを指します。回頭剋に化せば故障に注意、世を生ずれば目上や当局からの手厚いサポートを意味します。
第三節:行人(ぎょうにん)章 —— 遠方の音信と帰宅日の精密予測
資料「行人章第九十四」は、「いつ家に着くか」を予測する厳密なロジックを備えています。
1. 用神の選択
身内であれば関係性に応じた六親を、友人や他人であれば「応爻」を用神とします。
2. 帰宅日の判定法則
世空(せいくう)なる者は速やかに至る: 反直感的な「秘法」です。世爻が空亡であることは「私の席がすでに空いて待っている」状態を指し、行人は間もなく(あるいは今日中に)帰宅します。
用神が動いて世を生ずる: すでに出発しており、帰心を急いでいる象です。
用神が静止し、沖(ちゅう)される日に帰る: まだ動いていません。日辰がその爻を沖した時、ようやく腰を上げて帰途につきます。
用神が空亡し、実(じつ)となる日に帰る: 何かに手間取っています(空)。空亡を出る日に帰宅します。
用神が化退(かたい)して帰る: 退神は「遠方から引き返す」強いシグナルです。
用神が化進(かしん)して返らず: 「さらに遠くへ行く」ことを意味し、当分は戻りません。
第四節:筆者による深度解析 —— 「行人の病」と「帰期判断」の矛盾
評釈では重要な実戦の細部が強調されています。「用神に病(欠陥)あれば外で安らかならず。用神に病なくして初めて帰期を断ずべし」
実戦的修正: 行人が危険な状態(休囚受剋)であれば、卦が帰宅の日を示していても、戻ってくるのは「悪い知らせ」や「重病の姿」である可能性があります。安否と帰期は常にセットで判断すべきです。
第五節:実戦ケースの解析(資料より)
ケース1:世空なる者は速やかに至る(使用人の帰宅) 寅月の甲子の日に占う。使用人(財爻)は伏蔵して剋されており一見不吉だが、世爻が空亡であった。
判断: 野鶴老人は「世が空なら早く着く」と断じ、世爻が空を出る日に使用人が戻ってきました。
ケース2:子孫は順風の秘(船旅の実戦) 船旅の平安を占ったところ、当初は官鬼持世を不安視したが、卦中の父母(風雨)が動いていた。その後、変卦に「子孫」が現れた。
判断: 子孫が当番となる「巳の日」に晴天となり、順風を得ると断じ、的中しました。「子孫は船旅の順風なり」の証明です。
第六節:筆者による深度解析 —— 移動応期の「遠近の階層」
近き事は日時に応ず: すでに途上にあるなら(今日着くかなど)、空を沖するか値を合する「時間」を見ます。
遠き事は年月に定む: 海外などの遠方にいるなら、用神が沖される「月」や旺相する「年」を見ます。
特殊メカニズム:合は沖を待ち、沖は合を待つ: 用神が合されていれば、用事で引き留められています。沖される日に出発します。用神が沖されていれば(奔走中)、合される日(駅に着くなど)に到着します。
第七節:趨吉避凶 —— 外出の方位と回頭剋
回頭剋の方位を避けよ: 世爻が回頭剋(木から金へなど)に化すなら、目的地で自滅的なトラブルが起きます。出発日を剋神が抑えられる日に変えるか、自分を生じる方位(生世の方)へ行き先を変えるべきです。
子孫の発動を利用して難を避ける: 盗難などが心配なら、子孫が旺相する時刻に出発することで、災いの芽を摘むことができます。
第八節:移動予測の十大実戦鉄則(まとめ)
世が旺ずれば出行は吉、世が衰うれば門を出るなかれ:自身のエネルギーが安全を決める。
応が世を生ずれば迎えあり、応が世を剋せば小人を防げ:目的地の対人環境は応爻を見よ。
子孫は順風、官鬼は波浪:空路・海路の核心的指標。
世が空なれば速やかに至り、用が空なれば未だ帰らず:家が空なら人は早く着き、人が空なら帰りは遠い。
化進すれば他方へ、化退すれば必ず故郷へ:進退神が移動の方向を決める。
合されれば必ず阻みあり、沖されれば必ず旅立つ:聚散離合は沖合の間にあり。
静なれば沖される日を見、動なれば合される時を見よ:精密な応期を特定する法。
玄武の鬼は盗賊を防ぎ、白虎の鬼は血光を避けよ:六神が災いの形を決める。
世を生ずる方位は吉、世を剋する方位は凶:目的地の選定基準。
二つ占って合せて安否を了(さと)れ:重大な移動は慎重に検証せよ。
本章結び
『増删卜易』の知恵において、移動とは盲目的な動きではなく、時空におけるエネルギーの再配置です。子孫の順風を感じ取り、世爻の空亡から帰宅の足音を聞く。移動予測の最高境界は、「進退を知り、方位を明らかにすること」にあります。前方に険(険難)があるを知って止まり、遠方の人が帰るを知って備えることができれば、あなたはすでに時空の知恵を掌握しているのです。
