はじめに:主役は誰か? —— 「用神」の決定的な意義
第一章と第二章で、卦を組み立てる(装卦)方法を学びました。今、あなたの目の前にある卦には「父母、官鬼、兄弟、妻財、子孫」といった名称が並んでいます。占う人が最も頻繁に抱く疑問は、「どの爻(こう)を見ればいいのか?」ということです。
これが「用神(ようじん)を取る」という作業です。用神とは、あなたが占いたい事柄そのものを代表する記号のことです。もし財運を占っているのに、子孫爻(財を生む源)ばかりを見ていては、財そのものの強弱(旺衰)を見落とし、最終的な判断を誤ることになります。『増删卜易』が「実戦の王」と称えられる理由は、著者の野鶴老人が煩雑な用神の選択ルールを徹底的に精査し、「一事一用(一つの事柄に一つの用神)」の原則を確立したことにあります。
第一節:六親システムの現代的な深度定義
六爻(りくこう)における「六親(りくしん)」は、五行の生剋関係から導き出された社会モデルです。現代社会において、その意味合いは古代の家族構造から社会生活のあらゆる側面にまで拡張されています。
1. 父母(ぶも)爻(我を生じるもの):保護、契約、積載
古代の定義:父母、祖父母、師匠、文書、城、舟、車。
現代的な拡張:
不動産と居住: 家屋、土地、内装工事、建築プロジェクト。
学業と証明: 学位、契約書、免許証、手紙、メール、法的文書、証拠。
保護物: 衣類、雨具、保険、保護傘(上司の庇護など)。
交通手段: 自動車、飛行機、船舶。
核心的特徴: 保護、証明、情報を与えてくれるものはすべて父母を用神とします。
2. 官鬼(かんき)爻(我を剋するもの):権力、圧力、変数
古代の定義:官職、功名、鬼神、訴訟、夫(女性が占う場合)、泥棒。
現代的な拡張:
仕事と地位: 役職、昇進の機会、会社の経営層。
ネガティブなエネルギー: 病気(ウイルス)、不安、恐怖、小人(悪意ある人)、裁判・訴訟。
環境と災厄: 火災、落雷、自然災害、混乱した環境。
現代の男女関係: 女性が占う場合、未婚の夫、ボーイフレンド、長期的なパートナー。
核心적特徴: 自分を束縛し、管理し、傷つけるもの、あるいは社会的な地位を表すものはすべて官鬼を用神とします。
3. 兄弟(けいてい)爻(我と同じもの):競争、阻害、出費
古代の定義:兄弟姉妹、一族、仲間、財を奪う神(劫財)。
現代的な拡張:
対等な関係: 同僚、ライバル、友人、パートナー(利益を分配する相手)。
コストと支出: 経費、赤字、浪費、抵抗、意見の相違。
身体部位: 手足、肩(身体構造の予測に関連)。
核心的特徴: 自分と対等な地位にあり、リソースを競い、自分の利益を分かち合うものはすべて兄弟を用神とします。
4. 妻財(さいざい)爻(我が剋するもの):物質、欲望、被支配者
古代の定義:妻、使用人、金銀、食糧、財産。
現代的な拡張:
財務資産: 給与、ボーナス、投資収益、通貨、宝飾品、在庫商品。
生活必需品: 食べ物、日用品、家具。
現代の男女関係: 男性が占う場合、妻、ガールフレンド、愛人。
広義の欲望: 物質に対する追求。
核心的特徴: 自分が支配し、所有し、享受するものはすべて妻財を用神とします。
5. 子孫(しそん)爻(我が生じるもの):喜び、医療、消災
古代の定義:子供、部下、僧侶・道士、家畜、福神、鬼(官鬼)を剋する神。
現代的な拡張:
未来と成果: 製品(会社が生産するもの)、作品、クリエイティブなアウトプット。
解決策: 医薬品(病気を抑える)、救世主、警察(泥棒を平定する)、専門技術。
レジャーと娯楽: 旅行、趣味、楽しい気分、ペット。
人材: 学生、弟子、部下。
核心的特徴: 自分が生み出し、自分を楽しませ、憂いを取り除いてくれるものはすべて子孫を用神とします。
第二節:筆者による深度解析 —— 複雑な状況で「用神」を正しく選ぶには?
現実の問いは、単純に割り切れないことが多々あります。その場合は「分占(わけて占う)」と「柔軟な解釈」が必要です。
1. 「一事多義(一つの事に複数の意味)」の取捨選択
例えば「留学」を占う場合、何を見るべきでしょうか?
学校の合格通知書を見たいなら、用神は**「父母」**。
将来の学位や前途を見たいなら、用神は**「官鬼」**。
現地での生活費や奨学金を見たいなら、用神は**「妻財」**。
留学中の平穏や楽しさを見たいなら、用神は**「子孫」**。 起卦(占う)前に、自分の核心的な不安がどこにあるかを明確にすることをお勧めします。
2. 「用神両現(用神が二つ現れる)」の処理方法
卦の中に父母爻が二つ(一つは静止、一つは動く、あるいは内卦と外卦に一つずつなど)現れた場合、どちらを見るべきでしょうか?
動爻を優先する: 動いている爻は、出来事の変数や現在の重点を表します。
旺相(エネルギーの強い方)を取る: より強い方が事物の真の状態を代表します。
世応関係に近い方を取る: 世爻と同じ内卦にある場合などは、自分と密接に関わる方を優先します。
空破(旬空や月破)を避ける: 片方が欠陥(空・破)を持っているなら、欠陥のない方を基準にします。
3. 「用神不現(用神が現れない)」の探し方(伏神論)
卦の中に必要な六親が全く見当たらない場合、それは情報が「隠れている」ことを意味します。 この場合、その卦が属する「宮」の首卦(例えば乾宮なら乾為天)を確認し、その六親が首卦のどの爻位にあるかを探し、現在の卦の対応する爻の下に「伏せ(伏神)」させます。 筆者による解析: 伏神が現れないのは、時期尚早であるか、何らかの要因によって「押さえつけられている」ことを示唆します。
第三節:予測システムの骨格 —— 元神、忌神、仇神
主役(用神)を決めたら、次に主役を取り巻く「人間関係」を分析します。
元神(げんじん)(主役を生む親): 用神を生じるものを元神と呼びます。用神が金(財)なら、土(父母)が元神です。
実戦的意義:事の持続力、源泉、貴人を表します。用神が弱くても元神が強ければ、最終的には成就します。
忌神(きじん)(主役の天敵): 用神を剋するものを忌神と呼びます。用神が金(財)なら、火(官鬼)が忌神です。
実戦的意義:障害、破壊者、ライバルを表します。忌神が動けば、主役は必ずダメージを受けます。
仇神(きゅうじん)(忌神の味方): 忌神を生じ、元神を剋するものです。
実戦적意義:トラブルの引き金や環境のマイナス要因を表します。
第四節:実戦ケースの深度解析 —— 『増删卜易』のロジック再現
【古典的ケース】: 「父親の病気はいつ治るか?」を占う。
用神の選択: 父の病気なので、**「父母」**爻を用神とします。
主役の状態: 父母爻が卦の中で旺相していれば、父親の体力が十分であることを示します。
忌神の分析: 父の病気を占う際、**「妻財」**爻が忌神となります(財は父母を剋するため)。 深度評価: なぜ財が忌神なのか?中医学の視点では、財は「飲食や欲望」を表します。財爻が動いて父母を剋すなら、「不摂生が病状を悪化させた」あるいは「財産の管理に追われて治療が遅れた」といった解釈が成り立ちます。
結果の判断: もし子孫爻(元神を助け、官鬼を抑える)が動けば、名医や特効薬が現れることを意味します。
第五節:現代の読者へ贈る「用神選択」の落とし穴回避ガイド
「神煞(しんさつ)」に頼りすぎない: 野鶴老人は、五行の生剋を無視して「天医・貴人・駅馬」といった神煞ばかり見る人々を厳しく批判しました。現代の予測でも、五行のロジックが優先です。
「占人(人を占う)」と「占事(事を占う)」を区別する: 「昇進できるか」なら官鬼が用神ですが、「上司との関係」なら官鬼は上司(相手)を意味します。
「随鬼入墓(ずいきにゅうぼ)」に注意: 用神が極めて衰弱し、かつ「墓(ぼ)」に入る(例:木が未の日に会う)のは、物事が行き止まりになる、あるいは人が意識を失ったり拘束されたりする象徴です。
本章のまとめ
用神の取り方を学ぶだけで、六爻予測の正確さは50%に達します。残りの50%は、月建(げつけん)と日辰(にっしん)によって、これらの爻の力をどのように数値化するか(量化)にかかっています。
配役(用神)が決まり、敵味方(元神・忌神)が分かったら、次は「その芝居がどの季節に上演されるか」を見ます。時間の力が、キャラクターの生死を決定します。
次章予告: 「第四章:五行生剋と四時旺衰の量化分析」。なぜ春に占えば吉なのが、秋になると凶に変わるのか?「時間のエネルギー」の神秘に迫ります。
