はじめに:道具と意念の結合
第一章では、六爻予測の宇宙モデルについて探求しました。今度は、それらの抽象的な理論を具体的な記号へと変換していきます。六爻占いの核心は、特定の「意念(思い)」を「卦象(卦の形)」へと変えることにあります。現代では多くの自動排卦ソフトがありますが、筆者は初心者がまず手作業による起卦と装卦のプロセスをマスターすることを強く推奨します。なぜなら、手作業で卦を組み立てる過程で五行の流動ロジックをより深く理解でき、それが後の断卦(判断)における直感力に決定的な影響を与えるからです。
第一節:三文銭起卦法 —— 瞬間の情報エネルギーを捉える
野鶴老人は『増删卜易』の中で「用銭三文(三枚の銭を用いる)」の方法を推守しています。この方法は簡便かつ霊験あらたかであり、数百年にわたる「大宗之法(正統な方法)」の核心です。
1. 道具の準備
同じ種類の硬貨を3枚用意します。古人は鋳造が精良で、清朝の全盛期の気場(エネルギー)を持つ「乾隆銭」を好んで使いました。現代では、流通している硬貨であれば何でも構いませんが、一度決めたら占い専用にすることをお勧めします。
表面(字): 古銭では漢字がある面。現代の硬貨では数字(100や10など)がある面。「陽」と定義します。
裏面(図): 古銭では紋様がある面。現代の硬貨では絵柄(桜や平等院など)がある面。「陰」と定義します。
2. 起卦のプロセス
静心(心を落ち着ける): 静かで邪魔の入らない環境を選びます。手を洗い、呼吸を整えます。
動念(念じる): 3枚の硬貨を両手の掌の中に包み、占いたい事を心の中で念じます。問いは具体的かつ単一である必要があります(第一章の一事一占を参照)。
揺動(振る): 硬貨が掌の中で十分に回転するように振り、清潔な机の上に投げます。
記録: 合計6回投げます。順序は「下から上」です。1回目が「初爻(しょこう)」、最後が「上爻(じょうこう)」となります。
3. 記録ルール(重要)
六爻の記録は単なる数字ではなく、陰・陽・老・少の変化を記します。
裏面が1枚(二字一背): 「単(ぜん)」と記し、記号は「—」(少陽)です。
裏面が2枚(一字二背): 「拆(さく)」と記し、記号は「--」(少陰)です。
裏面が3枚(三背無字): 「重(じゅう)」と記し、記号は「O」(老陽、動爻)です。
表面が3枚(三字無背): 「交(こう)」と記し、記号は「X」(老陰、動爻)です。
筆者による解析: 「動爻(どうこう)」は六爻予測の魂です。『増删卜易』のシステムにおいて、動爻は出来事の変数、起点、あるいは発動ポイントを表します。「重」と「交」は断卦の際に入れ替わります。つまり陽が動けば陰に、陰が動けば陽に変わります。これが「変卦(へんか)」の由来です。
第二節:画卦と定宮 —— 事物の「大環境」を確定する
6回の投擲結果を記録すると、一つの「主卦」が得られます。次に、その卦がどの「宮」に属するかを確定させる必要があります。
1. 八宮と首卦(しゅか)を知る
周易のシステムでは、六十四卦は8つのグループに分けられ、各グループは8つの純卦(乾・兌・離・震・巽・坎・艮・坤)によって統括されています。これを「八宮(はっきゅう)」と呼びます。
乾宮(五行は金): 乾為天、天風姤、天山遁、天地否、風地観、山地剥、火地晋、火天大有。
他の宮も同様です(坤は土、震は木、巽は木、坎は水、離は火、艮は土、兌は金)。詳細は各宮位表を参照してください。
2. 筆者による深度解析:宮位の重要性
なぜ宮を定めるのでしょうか?「宮」は事物の全体的な五行属性を表すからです。例えば、ある卦が「乾宮」に属していれば、その卦の総体的なエネルギー基調は「金」になります。これは後述する「六親(りくしん)」を判断する際の唯一の基準です。宮を間違えると、父母、子孫、官鬼といった役割がすべて狂ってしまいます。
第三節:納甲(なっこう)システム —— 爻位に時空のエネルギーを与える
これは装卦の中で最も複雑で神秘的な部分です。「納甲」とは、十干十二支を6つの爻位に割り当てることです。『増删卜易』の実戦では主に十二支(地支)を使用するため、地支の納め方を重点的に解説します。
1. 乾は内に子、外に午を納む
乾卦を例にとります:
乾宮の内卦(下三爻): 初爻から「子(水)」を起し、一つ飛ばしで進みます:初爻は子、二爻は寅、三爻は辰。
乾宮の外卦(上三爻): 四爻から「午(火)」を起し、一つ飛ばしで進みます:四爻は午、五爻は申、六爻は戌。
2. 納甲の法則表
震宮: 乾宮と同じ(子、寅、辰、午、申、戌)。
坎宮: 内は寅から(寅、辰、午)、外は申から(申、戌、子)。
艮宮: 内は辰から(辰、午、申)、外は戌から(戌、子、寅)。
坤宮: 内は未から(未、巳、卯)、外は丑から(丑、亥、酉)。(※坤は逆行)。
巽宮: 内は丑から(丑、亥、酉)、外は未から(未、巳、卯)。
離宮: 内は卯から(卯、丑、亥)、外は酉から(酉、未、巳)。
兌宮: 内は巳から(巳、卯、丑)、外は亥から(亥、酉、未)。
筆者による解析: これらの十二支は適当に並んでいるのではなく、空間における五行の運行軌跡を含んでいます。初心者は「納甲対照表」を用意しておけば十分ですが、半年も経てば、これらの順序は筋肉が記憶するように脳に刻まれるべきです。
第四節:安世応(あんせいおう) —— 「我」と「彼」をロックする
「世爻(せいこう)」と「応爻(おうこう)」は六爻予測の主軸です。
世爻(世): 占卜者本人、または問いかけ事の「主体」を表します。
応爻(応): 相手、目標物、環境、または問いかけ事の「客体」を表します。
1. 世位の見つけ方(尋世歌)
八純卦(乾為天など): 世は六爻(最高位)にあります。
一世卦(初爻が変化): 世は初爻。
二世卦(二爻が変化): 世は二爻。
(以下、五世卦まで同様)。
遊魂(ゆうこん)卦: 世は四爻。
帰魂(きこん)卦: 世は三爻。
2. 世応の関係
世爻と応爻の間には常に2つの爻位が挟まれます。世が初爻なら応は四爻、世が二爻なら応は五爻となります。 筆者による解析: 実戦において、世応の生剋は事の順逆を直接決定します。世が応を剋せば自分に主導権があり、応が世を剋せば相手からの圧力が強く受動的な立場になります。
第五節:定六親 —— 社会関係モデルの構築
装卦の最後のステップであり、最も論理的な部分です。「卦宮」の五行属性と、各「爻位」の十二支の生剋関係に基づき、5つの関係を定義します。
我を生じる者は父母(ぶも): 文書、目上、家、保護。
我が生じる者は子孫(しそん): 喜び、憂いを除去、医療、部下、製品。
我を剋する者は官鬼(かんき): 職位、圧力、病気、災い、夫。
我が剋する者は妻財(さいざい): 金銭、給与、欲望、妻、食べ物。
我と比和する者は兄弟(けいてい): ライバル、友人、出費、阻害。
第六節:筆者による深度解析 —— 装卦における現代実戦の秘訣
1. 「空缺」の六親(伏神)を観察する
装卦が終わった後、時折ある六親が卦の中に「欠けている」ことがあります。これを「伏蔵(ふくぞう)」と呼びます。これは財がないという意味ではなく、財が「隠れている」ことを意味します。その卦が属する宮の「首卦」からその六親を探し出し、現在の卦のどの爻の下に隠れているかを確認します(伏神)。
2. 「動爻」の指向を重視する
起卦で「O」や「X」が出た場合、それはエネルギーの激発を表します。装卦の際には必ず「変卦」を描かなければなりません。動爻が「子孫」で、変わった先が「父母」であれば、これは「回頭剋(かいとうこく)」と呼ばれます。この動的な変化こそが、最終的な結末を判断する唯一の根拠となります。
第七節:本章のまとめ
装卦の完全な手順は以下の通りです:
揺卦: 硬貨を6回投げ、陰陽動静を記録する。
主卦名: 記号から卦名を調べる。
定宮: どの宮に属するかを確定する。
納甲: 十二支を配する。
安世応: 世爻と応爻をマークする。
排六親: 宮の五行を基準に六親を配する。
排変卦: 動爻があれば変化後の卦を描く。
結び
『増删卜易』が強力である理由は、これらの煩雑に見えるステップの中に、極めて精緻なデータモデルを構築しているからです。本章の内容は一見退屈かもしれませんが、達人への道には避けて通れない場所です。ぜひ実際に硬貨を手に取り、一つ手作業で卦を組み立ててみてください。
次章予告: 装卦を学んだら、次は「どの爻を見ればいいのか?」という問題に直面します。五人のキャラクターの中で誰が主役なのか?「第三章:六親システムと用神選択の芸術」について深く探求していきます。
